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皮肉屋と腹黒。
2008/08/06(Wed)

 佐倉くんが消えて、その場に取り残された僕らは顔を見合わせる。
 先に口を開いたのは僕だった。

「なんだろう、あの常識外しっぷり……僕が間違ってんのかな」

「さー」

 なんて、気のない返事だろうか!
 僕がさらに不満を言おうとすると、後ろから苛立ちも露わな声がした。

「すみません、通して戴けます?」

 黒い髪を短く揃えた、淡白な顔がそこにある。身長はちょっと小さいかな程度。
 慌てて僕は身を引いた。

「あ、すいません」

 いつからそこにいたんだろう。気付くのが遅れた僕が謝ると、彼は冷めた目をしながら身体を折ってくれた。

「新見連と申します。委員長、よろしくお願いします」

「よろ……え、いいんちょう?」

 彼の目が恐かったから、僕が少しびくついた。
 そして、新見くんの言葉に動きを止めざるを得なかった。衝撃発言を聴いた気がするのは僕だけじゃないはずだ。隣りを見ると――和臣は「それは初耳だ」というように、口笛を吹いた。

「聞きましたよ。女子を押し退け、ダントツで入試一位の点数を男子が取ったって」

 笑うことなく、新見くんは教えてくれる――それにしても、彼はどうしてそんなに面白くなさそうな顔をしているのだろう。どうして僕を新見くんは睨んでくれるんだろう。ってか、目つき悪すぎないか?

「そ……そうなんだ」

 あぁもう! 会話を終えて、全力疾走でこの場を去ってしまいたい!! 
 きりりと、胃が軋むような音を立てた。
 雰囲気が恐いんだよ新見くんは――僕がビビっているのに(多少の動きだが絶対にそうだと断言出来る)、彼は満足そうに口の両端を吊り上げて三日月みたいな形に整えた。ちょっと、やめて。精神的にキツいから。

「恨まれてるでしょうね、さぞや――痛ッ」

 僕が「ひぃいい」と泣くよりも先に響いた鈍い音は、新見くんの後頭部を殴った音だった。
 新見くんの後ろから現れた身体の線の細い男の子は、ぐっと拳を握ったままにこにこと微笑んでいる。虫も殺せないようなイイ笑顔でヒトを殴るなんて実に恐ろしい。ってか、この人も何の気配も感じさせずに登場って、おかしくないか??

「はいはーい、新見っちゃん、ヒドイこと言ったから減点イチー」

 減点イコール殴打なのだろうか。彼の幼少期がその笑顔から透けて見えるようだ。彼はきっと笑顔で、生きたままチョウやトンボの羽をむしったと思う。きっと、そうだ。
 新見くんは痛む頭をさすりながら悲鳴じみた声を上げた。

「吾妻ッ!」

 けれど、吾妻くんは無視して僕に微笑んでくれる。
 あぁ、なんてきれいな笑顔なんだろう。その笑顔で新見くんを殴らなきゃ、僕は永遠に君を『イイヒト』として認識し続けただろうに。
 ぼんやりと考えていると、吾妻くんは僕の右手を握って上下に振った。

「ごめんね、こいつ、物凄いイヤミ言うから。でも、イイトコもあるんだよ? オレは吾妻凌介。いいんちょ、よろしくね」

 あぁ、なんだろう。確実に先が思いやられる人間関係を垣間見てしまった。


 この高校で、本当に大丈夫なのか???


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